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September 30, 2020

雑種強勢

「雑種強勢」という言葉をご存知でしょうか?
小学館発行「日本大百科全書(ニッポニカ)」には以下の通り記載されております。

遺伝的に異なる両親の間に生じた雑種に現れる、生育、生存力、繁殖力などの優れた性質をいい、ヘテローシスheterosisともよばれる。自殖劣性の逆の現象である。すべての雑種に現れる現象ではなく、両親の組合せによってその程度が異なる。一般に同一種内の遠縁のものの間の組合せほど雑種強勢が強く現れるが、あまり遠縁のものはかえって生育の不良な雑種弱勢を示すことがある。 雑種強勢は、雑種性の程度と深く関係しており、雑種第一代(F1)にもっとも著しく現れ、以下、雑種世代が進むにしたがってしだいに強勢の程度が減少する。

我々の生活に身近な例を上げれば
・交雑牛は肉質が良くて美味しい
・イヌのミックス(雑種)は長生きする
というやつです。

この雑種強勢、ウマの生産でも利用されている現象です。家畜改良センターのサイトにも説明があります。

それでは、と。実際の競走馬の血統を見てみましょう。
F1(純血種×純血種)の活躍馬といえば、コーネルトップ(139戦31勝,重賞8勝)が真っ先に上げられるでしょうか(純血ベルジアン×純血ペルシュロン)。

Cornel

そして。雑種化が進んだ血統馬に純血種を交配すると雑種強勢の効果が強く現れる、という例ではばんえい競馬史上に残る名種牡馬マツノコトブキとその全兄ハヤホマレ(154戦41勝,重賞12勝)。純血ペルシュロン×半血(雑種)馬。

Matsu

そして、マルゼンストロングホースやジアンデユマレイが日本の半血種牝馬と交配して大成功した事例や、反対に輸入ベルジアン牝馬が活躍馬(ニシキダイジンとかキタノビッグエースユミタロウ)をたくさん出した事例なんかもこれに合致するわけです。

 

また、雑種強勢ですが。前述ニッポニカの説明や豚の事例によると繁殖力でも優れた性質が現れるといいます。
純血種×純血種の名繁殖牝馬といえばミハル(ウンカイアンローズの母)やサホロクイン(サカノタイソンの母)が代表格。

Miharu Sahoro

純血種牡馬×その血を持たない半血種牝馬でいえばトツカワ(ダイヤテンリユウニセコクインヨウテイクインの母)やアサヒシヤルダン(スーパーペガサスの母)。

Totsukawa Asahi
雑種強勢がばん馬の改良に大きな役割を果たしてきたというのがよくわかろうかと思います(と同時に、ベルジアン種の導入が昭和後期~平成初期の馬産に大きな影響を与えたことも)。

 

ただ。これが時代が経るごとに様子が変わっておりまして。
かつて、農用馬の生産現場では「競走馬として顕著な成績を残した馬が種牡馬となる」ことは稀で、種牡馬は種牡馬となるべく育てられ(輸入され)た馬が種牡馬となっておりました。これらの中には多数の純血馬がいたわけで、雑種強勢の効果が得られやすい状況だったわけです。
それが昭和末期からは競走馬が種牡馬になる数が増加、現在では競走馬としてデビューする馬のほとんどの父親は競走経歴を持つ馬となっています。
そして、競走経歴馬は品種改良の結果どんどん大型化が進んでおり、純血種の繁殖馬は体格面で見劣りしてしまっております。
結果として、現在ばんえい競馬で走っている馬の血統は雑種化が進んだ繁殖馬同士の配合が主流になってきておりますし、今後もこの傾向は加速するだろうと思われます。

さてさてそんな中。令和の世に登場したのがアルジャンノオー。雑種化の進んだ競走経歴種牡馬×家畜改良センター産まれの純血ペルシュロンという掛け合わせ。雑種強勢を活かした配合です。

 

Aljan

雑種強勢がばん馬の改良に大きな役割を果たしていることを再認識するとともに、純血種繁殖馬の大切さ、純血馬を生産している家畜改良センター十勝牧場がばん馬の品種改良を下支えしているという事実を再認識した次第です。

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