May 07, 2025

ばん馬の牝系のルーツをたどってみる

ばん馬(日本輓系種)の成立は「日本の在来馬に外国から輸入した大型馬を交配していった」というのは周知の事実かと思います。
ただ、輸入馬というと、イレネーを筆頭にした種牡馬の輸入というイメージが強くなりがちですが。外国から輸入された牝馬が強いばん馬の生産に大きな役割を果たしております。
例えば記憶に新しいところでは、ばんえい記念2勝のニシキダイジン(母が輸入ベルジアン)。一億円馬でいえば、マルゼンバージ(母が輸入ベルジアン)、フクイチ(祖母が輸入ペルシュロン)。
また、純血種の繁殖牝馬の競走馬生産現場への導入という意味では、家畜改良センター十勝牧場(旧十勝種畜牧場)で産まれた牝馬が民間の牧場に移動して繁殖牝馬となる例も多くあります。最近の例ではタカナミ(母が純血ブルトン)やアルジャンノオー(母が純血ペルシュロン)。一億円馬でいえばメムロボブサップ(5代母が純血ペルシュロン)とスーパーペガサス(3代母が純血ペルシュロン)が、十勝種畜牧場の牝馬をルーツに持っています。


じゃあ、現在のばん馬の牝馬のルーツはどんな塩梅なんだろう? ちょっと気になったので調べてみました。

・対象は令和7年度第1回能力検査の合格馬63頭
・馬関連団体情報システムで牝系を遡り、生年・品種が登録されている最も古い牝馬の品種で集計

なお、手法は根性マイニング(筆者が目で見て頑張る)を利用しました。

結果はこちら。
・ペルシュロン(十勝種畜牧場産) 3頭
・ペルシュロン(北海道畜産試験場産) 2頭
・ペルシュロン・ペル系(その他内国産) 12頭
・ブルトン(十勝種畜牧場産) 4頭
・ベルジアン 5頭
・半血種(内国産) 36頭
・サラブレッド 1頭

個人的な感想としては、「意外と輸入馬が少ない」でしょうか。特に、昭和51年に輸入されたフランス産ペルシュロンの子孫(代表格は一億円馬フクイチ)がいなかったのは残念。

牝系については拙サイトでも少しずつまとめていますが。もうちょっと掘り下げて調べていきたいなあ、と思ったりしています。

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January 25, 2025

2022年生まれのばん馬の近交係数を概観してみる

競馬場にいるばん馬の近親度合いがどれぐらいのところにあるか。
NARのデータベースに登録されていた2022年生まれのばん馬364頭について、近交係数を簡易的な試算で算出してみました。

昨年の状況はこちら

※過去4代(5代血統表)での簡易集計なので、厳密に計算した値よりも低めになっています。あくまで参考値です。
結果はこんな感じ。

 

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5代までにクロスを持たない馬は全体の20%弱程度。一方、2×3以上のかなり濃いクロスを持つ馬は全体の1.4%程度でした。

また、このグループ分けした表に能力検査の合格馬・合格率を当てはめてみたのがこちら。

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この結果だけ見ると「近親度合いが強い馬ほど能力検査の合格率は高い」という感じに見て取れます。むむむ。昨年に調べた結果と並べたのがこちら。

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強い近親交配は死産や遺伝的疾患の発現リスクが高まるので避けるべき。牛等の説明を見ていると 6.25%(2×3) が1つのラインかなあ、と考えてはいるのですが。
この結果を見る限りでは、そのラインをどの辺りに設定するのかはまだわからんなあ、というところです。能力検査の合格率だけじゃなく、別な指標からも考察した方がよいのかなあ。はてさて。

 

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February 23, 2024

2021年生まれのばん馬の近交係数を概観してみる

先日、2021年生まれの収得賞金上位馬について、5代までに生じたクロスと近交係数を調べてみましたが。それからもうちょっと頑張ってみまして。NARのデータベースに登録されていた2021年生まれのばん馬385頭について、近交係数を簡易的な試算で出してみました(過去4代(5代血統表)での簡易集計なので、厳密に計算した値よりも低めになっています。あくまで参考値です)。

結果はこんな感じ。

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5代までにクロスを持たない馬は全体の15%程度。一方、2×3以上のかなり濃いクロスを持つ馬は全体の2%程度でした。

 

また、このグループ分けした表に能力検査の合格馬・合格率を当てはめてみたのがこちら。

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単年度の数字だけで答えを出すのは早計ですが、仮説込みの個人的感想は以下の通り。
・実際に試算する前は近交係数0%(5代までクロス無し)の馬は合格率が良くないと思ってました。理由は「この区分には体格面で劣る純血種だったり、農用馬以外の血が入っている繁殖馬の産駒が入ってくるから」だったのですが。実際には平均越え。個人的にも繰り返し述べている「雑種強勢」の効果が働いているのでは。
・牛などの家畜での近交係数の説明を見ていると 6.25%(2×3) が目安で、ここを越えないような配合を推奨する記述を目にします。今回の結果でも、6.25%を越えると合格率が下がっています。ばん馬も近交係数が6.25%を越える配合は避けた方がよいかもしれませんね(当然、強い近親交配は遺伝性疾患の発現リスクが増大しますし)。
・この集計の結果のみでいえば、3×4や4×4が2本等、ある程度のクロスが馬の能力を高めているように見えます。個人的には、生産者が「種牡馬の能力・資質」と「近親交配のリスク」を勘案して交配相手を選定する。その際、許容できる近親度を 3×4 あるいは 3×3 というあたりに置いている生産者が多いのかな、という推測をしているのですが。いやもしかしたら科学的根拠が見当たらない「奇跡の血量」に、実は「何か」がある可能性も。

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January 07, 2024

競走馬の血統情報を遡及的にデータ化してみる

農用馬(ばん馬)の血統を調べることができるデータベース「馬関連団体情報システム」便利に使わさせていただいております。前身の「家畜改良データバンク」からいろいろと進化しているわけですが、中でも「競走馬名での検索が可能」は非常に便利で、ありがたく使わせていただいております。(体感ですが)平成3年以降に競走成績が残っている馬は競走馬名での検索ができる感じ。能力検査不合格・不受験馬でも、平成6年以降に生まれた馬は登録馬名での検索可能。拙サイトの牝系図を書く際等に重宝しております。

ただ、そうは言っても。「それよりも前の情報もデータ化されているとうれしいよね」と思ったりもするわけです。
昭和51年から農用馬の血統登録は日本馬事協会で一元管理されています。また、昭和53年からばんえい競馬の新馬登録に日本馬事協会が発行する血統証明書の添付が義務付けされました。つまり、昭和51年以降に生また競走馬(競走経歴の有無を問わず)については、この馬関連団体情報システムに血統情報が登録されていることになります。
また、帯広単独開催以前は、主催者が公式記録をまとめた「記録書」を刊行しております。昭和53年の記録書を見ますと、3歳馬(旧表記)は能検合格馬・不合格不受験馬について両親の血統も記載された形でリスト化しております(画像は平成7年度のもの)。

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この2つを結び付けられたらいいんだよなあ、と思いつつ。私が帯広市や日本馬事協会に働きかけをできるほどの人物でもないわけで。

とりあえず、いつも通り「とりあえず自分で作ってみるか」ということで、少しずつ作業を始めてみました。

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「この作業、何かの役に立つ? 時間の無駄遣いじゃね?」という感想が頭をよぎったりもするのですが。自分の興味の赴くままに手と頭を動かすのって、やっぱり楽しいですよね。
(競馬場に在籍していた競走馬の情報というのは競馬の記録としては「根幹」だと考えますので。いつの日か、公式な情報として整理できればいいなあ、と願いつつ)

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January 02, 2024

2021年生まれのばん馬の血統を概観してみる

ばん馬の血統は寡占化が進んでいる、というのはよく言われることですが。じゃあ、今のばん馬はどれぐらいの近親交配があるのでしょう?
ということで、差し当たり2021年生まれの明け3歳馬の賞金上位20頭(2023年12月30日時点)について、5代までに生じたクロスと近交係数を調べてみました。

近交係数については、過去4代(5代血統表)の簡易集計(手作業)なので、正確な値よりも若干小さめの数字になっている可能性が高いです。あくまで参考値ということで。

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なお、昨年/一昨年にも同じことをやっておりますので、あわせてご笑覧いただければ幸いです。
2020年生まれのばん馬の血統を概観してみる
http://riki-midori.cocolog-nifty.com/blog/2023/01/post-b8e48b.html

2019年生まれのばん馬の血統を概観してみる
http://riki-midori.cocolog-nifty.com/blog/2022/01/post-ac8ae0.html


しかし、3年間同じことをやっておいてこういう感想もアレなのですが。「上位20頭」をみても、正直「よう分からん」という感じですね(汗)

登録全馬の近交係数を調べて、能力検査の合否や受賞額と並べてみる+経年の変化を追ってみると、いろいろと見えてくるのかもしれません。
近交係数の計算に手間がかかる部分が多いので、今まで着手できなかった課題なのですが。……やってみるかなあ。

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October 29, 2023

(令和5年度)北海道祭典ばんば1歳馬決勝大会 出走馬

令和5年10月21日に行われました、北海道祭典ばんば1歳馬決勝大会の出走馬について、各馬の血統背景を簡単にまとめてみました。
(馬名のリンク先は馬関係団体情報システムです

1枠 ハルミ(牝)
 父:テルシゲ(169戦49勝)
 母:ヒメオリュウ(70戦6勝)
ヒメオリュウの初仔。近親におじアアモンドランサー(5歳B3)など

2枠 ホクセイマリコ(牝)
父:ミタコトナイ(137戦41勝)
母:コウシュハマリン(44戦4勝)
兄弟近親に目立った活躍馬はいません

3枠 イクエ(牝)
父:ユウトウセイ(311戦30勝)
母:イクミファイター(19戦0勝)
兄にホクセイイサム(3歳C1)

4枠 エイカン(牝)
父:フジダイビクトリー(218戦39勝,重賞10勝)
母:ヒカルエーカン(19戦3勝)
いとこにピュアリーナナセ(4歳A2,2022年黒ユリ賞)やイオン(38戦9勝,2021年黒ユリ賞等重賞2勝)などを始め、近親馬には活躍馬が多数。カナダ産ベルジアン馬レオナから広がる名門牝系の一頭

5枠 (欠場)

6枠 ハツハル(牝)
父:フジダイビクトリー(218戦39勝,重賞10勝)
母:サンユウセイコー(不出走)
おじにハゴロモミッキー(6歳B3)おばルイズ(3歳B2)。こちらもカナダ産ベルジアン馬レオナから広がる名門牝系の一頭

7枠 (欠場)

8枠 (欠場)

9枠 ダイフク(牡)
父:キンメダル(143戦21勝)
母:ユキコチャン(不出走)
4代母はサラブレッド

10枠 キタサカエシュウジ(牡)
父:ジェイワン(63戦15勝,重賞1勝)
母:晏松姫(不出走)
現役の兄弟は兄にホクエイテイオウ(4歳B1)。おじテルシゲ、おばワタシハサクランボ(101戦13勝)をはじめ近親には活躍馬が多数います。

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January 19, 2023

ベルジアン種の血統をもっと深く知れるかも

かれこれ1年ほど前になりましょうか。あれこれ調べ物をしている最中、とあるWebサイトに辿り着きました。
https://belgianregistry.com
"Belgian Draft Horse Corpoation of America"のWebサイトで、オンライン上で馬の登録ができ、血統の遡りも可能。
思いつく馬名を入れてみる
ジアンデユマレイ
マルゼンストロングホース
当然ながらヒットする。すげーぜ。

長年知りたかったマルゼンバージの母ヂアンスジユルの原綴りが"Jan's Jewel"であることも判明する。すげーぜすげーぜ。
うれしくってTwitterに投稿までしてしまってました。

https://twitter.com/baneishiryokan/status/1484523506205626369

海外(特に米国)の馬の血統を調べられるサイトといえば、https://www.allbreedpedigree.com は知っており、前々から使っておりました。ただ、マルゼンストロングホースと思しき馬が2件登録されていたりして。 STRONG HORSE SUTORONGUHOSU

データの信頼度という点ではもう一声かなあ、という感想を持っておりました。

今回の belgianregistry.com はデータの信頼度も高そうだということで、拙サイト重種馬名鑑に載せている5代血統表に関しても、このサイトで調べた情報を反映させていこうかと思っているところです。まずはマルゼンバージの5代血統表
拙サイト
http://banei.no.coocan.jp/horse/blood/mrzvg_b.html
馬関連団体情報(日本馬事協会)
https://www.bajikyo.or.jp/renkei.php?pageno=206&assoc=1&hno=16101%200934

これから少しずつ、いろいろな馬の血統表を更新していきたいと考えております。

「これまで不明だった血統表の先祖が埋まる」という事は、「マニア的な喜ばしさ」という意味での単純なうれしさ、というのは当然あるのですが。

先祖の情報がキチンと分かっていればそれだけ、近交係数の計算をした際に「より正確に近い数値」を導き出せる。
血の偏りが懸念されている日本輓系種の生産現場で役立てられる情報が提供できるかもしれないぞ。と、自分勝手に満足している今日このごろでございます。

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January 01, 2023

2020年生まれのばん馬の血統を概観してみる

ばん馬の血統は寡占化が進んでいる、というのはよく言われることですが。じゃあ、今のばん馬はどれぐらいの近親交配があるのでしょうう?

ということで、差し当たり2020年生まれの明け3歳馬の賞金上位20頭(2022年12月30日時点)について、5代までに生じたクロスを調べてみました。
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なお、昨年にも同じことをやっておりますので、あわせてご笑覧いただければ幸いです。

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January 19, 2022

2019年生まれのばん馬の血統を概観してみる


ばん馬の血統は寡占化が進んでいる、というのはよく言われることですが。じゃあ、今のばん馬はどれぐらいの近親交配があるのでしょうう?
ということで、差し当たり2019年生まれの明け3歳馬の賞金上位20頭(2022年1月14日時点)について、5代までに生じたクロスを調べてみました。
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September 28, 2021

【血統解説】ヤマトタイコー

今回の血統解説は銀河賞で渡来心路騎手と共に重賞初制覇を達成したヤマトタイコー。幕別町西村さんの生産馬です。

http://banei.no.coocan.jp/horse/blood/ymtik_b.html

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父は芯情。純血ペルシュロン種で独立行政法人家畜改良センター十勝牧場の生産馬。純血ペルシュロン種と純血ブルトン種の生産をしています。同牧場で生産された純血ペルシュロン種雄馬の産駒がばんえい競馬の重賞を勝利するのは武潮の産駒である「怪物」サカノタイソンがばんえい記念(2002年2月17日)以来となります。芯情の父はトウカイシンザン(167戦18勝)。帯広市の名門三井牧場の生産馬。同い年同じ牧場生まれのアンローズ(145戦33勝,重賞10勝)との間に産まれたキタノキセキ(337戦30勝)が代表産駒。先日紹介したクマモトヨカバイの2代父でもあります。同馬は現役を引退して家畜改良センター十勝牧場で飼養されております。十勝牧場で供用される種雄馬は同場で産まれた馬、あるいは輸入された馬が多いのですが。ばんえい競馬で競走馬として活躍した馬が十勝牧場で種雄馬として供用されたのは恐らく初めてのはず。芯情はトウカイシンザンの初年度産駒となります。母父はフランスからの輸入種雄馬フアニオン。二代母の父は(先に名の出た)武潮、十勝牧場の生産馬。三代母の父はアメリカからの輸入種雄馬マジエステイツク。ペルシュロン種といえば圧倒的にフランスからの輸入馬が多く、北米大陸産のペルシュロン種雄馬はものすごく珍しいです。
同じ「純血ペルシュロン」でも、さまざまな国、さまざまな牧場で生産された馬がいるわけですが。十勝牧場では、その多様な血統をうまく取り入れながら純血種の育成と品種改良を続けてきたことが、芯情の血統表からうかがい知ることができます。

続いて、母五月。競走馬としての経歴はありません。兄には2011年柏林賞を勝ったタカノテンリュウ(93戦16勝)。他に近親の活躍馬はフナノクン(182戦29勝)、レオユウホー(190戦29勝)など。アメリカからの輸入ベルジアン馬パツシーに、ヒカルタイコー(195戦20勝)→ハマナカキング(239戦35勝)と、西村牧場で飼養している種牡馬を2代続けて交配した血統です。
優れた競走成績を残した馬が種雄馬となるというのは、ばん馬の生産では昭和末期になって主流となったもので、昭和50年代に日本に導入されたベルジアン種の存在も含め、現代的な品種改良といえるでしょう。

改めてヤマトタイコーの血統表を見直してみると。父親は純血ペルシュロンで母親が雑種化の進んだ半血種。いわゆる雑種強勢の効果を期待できる配合です(雑種強勢については以前書いた記事も参照ください)。
また、十勝牧場(国)が培ってきた血統主体の父芯情に対し、民間の個人牧場が独自の力で改良をしてきた母五月と出自も対称的。ヤマトタイコーは「官」と「民」の品種改良技術の結晶といえるのかもしれません。

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